『告白前』

　　　仰げば尊しを皆で歌う。卒業式はもうすぐ終わるはずだ。
　　　レイは声を出す気がせず、口だけ動かしていた。
　　　女の子の中には、泣いている子もいたが、レイにとってはなんの感慨もない。
　　この３年間、レイはずっと「伊集院レイ」という男の子を演じていた。いい事
　　なんか何もなかったはずだ。
　　　（だけど・・・・・。）
　　　レイは思う。　本当は違う。本当は幸せだった。
　　　彼の後ろ姿をじっと見つめる。
　　　（そう、あの人を好きになったから・・・。）
　　　彼に出会えて幸せだった。この３年間、辛くて苦しくて泣いた事は、もう
　　数え切れないほどだったが、彼を遠くから見つめたり、少しでも話したりする、
　　それだけでも、幸せだったのだ。

　　　歌が終わり、卒業生は退場する。今日、レイは、もしかしたら今までで一番
　　辛くなる事を、これからしなければいけないのだった。
　　　（いそがなきゃ・・。）
　　　レイは廊下を走り、階段をかけ上がる。めざすのは理事長室のとなりにある
　　自分専用の特別室だ。このあたりには、一般の生徒はほとんど来る事はない。
　　　すばやく部屋に入った後、鍵をかけた。この部屋を使うのも今日が最後になる。
　　一息付く暇もなく、彼女は着替え始める。
　　　最初で、最後の、セーラー服に。

　　　着替えを済ませ、レイは窓にかかるカーテンの隙間から、外をのぞいて見る。
　　伝説の樹のあたりには誰もいない。さすがに、こんな日にあの場所を利用する
　　生徒はいないようである。
　　　（勇気を出して・・・、行くわ。）
　　　ここから、奥の非常階段をつかって行けば、ほとんど人に会わずにあそこまで
　　行けるはずだ。レイは、一回深呼吸をしてから、ドアを開けとび出した。
　　　走った、今までにこんなに速く走ったことがないくらいの勢いで走った。

　　　伝説の樹まで来た。樹にもたれて、息を整える。周りにはまだ誰もいない。
　　レイは、不安にかられる。
　　　（もし、彼が来てくれなかったら・・・。）
　　　本当は、来てくれた後の方が問題なのだが。
　　　樹の陰から、校舎の方を見る。しばらくすると、ひとりの男子生徒がこちらに
　　向かって走ってきた。レイは、目を凝らしてそれを見つめる。
　　　（彼だ！！）
　　　頭をひっこめる、見上げると、木漏れ日が綺麗だった。心臓の鼓動がだんだん
　　早くなるのが自分で解る。
　　　彼の気配が、すぐ側まできた。全力で走って来たらしく、かなり息を切らせて
　　いるみたいだ。そっとのぞくと、彼は、手を膝に付いて顔を地面に向けたまま
　　肩で息していた。

　　　（勇気を、下さい・・・。）
　　　樹の陰から、そっと足を踏み出し、髪を結わえていた、紐をほどく。長い
　　金髪が広がって、風に流れる。
　　　下を向いていた彼が、ゆっくりと、レイを見上げる・・・・。

えと…、私、ゲーム的にたまたま卒業式になるだけで、
伝説の樹の下での告白というのは、何時でもいいのかと思ってたんですよね…。
思いっきり勘違いしてました…(大汗)
で、このお話については、この後告白シーンに続くということで…(^^;
…次のお話は、もう告白後になってます(;^_^A

『理事長』へ