「カレンさんの色香」
グランシルのカレンの家に、ティピ、ルイセ、ミーシャが集まっていた。
カレンにグローシュ結晶を渡し損なっていたことに気付き、慌てて持って来た
のだが、「惚れ薬作戦」は既に失敗に終わっていたのだった。カレンは新しい
エプロンを縫いながら、事の次第を３人に話して聞かせていた。
「ふ〜ん、結構いい雰囲気ではあるんじゃない？
やっぱ、マスターの言う通り、押しが足りなさそうだな。」
「そうよねぇ、カレンさん、変なところで理性的だから…」
「これはもう、直接攻撃しかないんじゃないかなぁ。
大人の女性の魅力を最大限に生かしてさ♪」
「ま、確かに清純派路線じゃいつまでたってもゼノスには通じないかもね。」
「でも、妖艶派路線はカレンさんには合わないんじゃない？」
「今のキャラクターを生かしてお色気をプラス出来ればいいんだけどなぁ。」
３人娘はカレンそっちのけで次の計画を練りはじめている。
そんな所へいきなりゼノスが現れた。
「カレーン、俺の着替えどこだー？」
それと同時に３人娘の悲鳴が響き渡った。
「わーっ！」
「きゃっ！」
「いや〜ん！」
ゼノスは風呂上がりでタオル一枚を身にまとった格好だったのだ。口ではあれ
これと言ってはいても、やはり３人には少々刺激が強すぎた。それに対して、
カレンだけが平然としている。
「おっと、悪い、来てたのか。」
「もう！兄さんったら！
裸で家の中うろつかないでって、いつも言ってるじゃない。」
「わかった、わかった、気を付けるよ。」
カレンに怒られゼノスはそそくさと引っ込んでいった。
「あー、びっくりした。
しかし、この会話はどう聞いても中堅夫婦の会話だわ…
とても、恋人以前とは思えないわねぇ。」
ティピがそう呟くと、ミーシャがまた変なことを言い出した。
「それなら、これっきゃない！ 裸にエプロン！」
「なんじゃ、そりゃ…」
「ミーシャったら、またそういう突拍子もないことを…」
「そーかなぁ？ だって男の人はみんなこういうのが好きじゃない。
男のロマンだって言ってたよ。」
「誰が言ってたか、聞かんでもわかるわ…」
ミーシャの爆弾発言は毎度の事ながら、ティピとルイセは呆れ顔である。一方、
カレンは意味が解らずに、目を瞬かせている。
「あの〜、それって何かしら…？」
カレンの質問にミーシャが含み笑いをたたえながら答える。
「あのね、男の人ってのはエプロンが好きなの♪
でもってぇ、洋服が無い方がもっといいんだって。」
「？」
「そんで、そんでぇ、そんなんで台所に立ってるとたまらないって。」
「？？」
「これこそ男の憧れ、男のロマンだってさ♪」
「？？？
兄さんが裸でエプロンして、料理を作りたがってるってことかしら…？」
『ちっがーーーう！！！』
さっきの悲鳴以上の三重奏が響き渡った。
それから３人がかりで「裸にエプロン」をカレンに説明した。
「そういうものなのですか…
エプロンにそんな使い方があるなんて知らなかったわ。
私、まだまだ勉強が足りないわね。」
「いや、勉強するようなもんじゃないんだけど…」
ピントのずれた反応に困惑顔のティピ
「それで、それをするとどうなるのかしら？」
「どうって聞かれても…、その、なるようになるかしら。
あの、少なくとも、中堅夫婦から新婚夫婦にはなれるんじゃないかと…」
どうなるなどとはとても口にはできないルイセ。
「新婚夫婦に？」
「えーと、これでゼノスさんの理性のひとつも吹っ飛んでくれれば、
惚れ薬なんて目じゃないかなぁ…」
言い出しっぺでありながら、効果の程までは断言できないミーシャ。
「それって、兄さんに気持ちが通じるってこと？」
まじめに聞かれて答える方もしどろもどろである。その上、微妙に話の論点が
ずれて来ている。それに反してカレンの瞳が輝きだした。
「私、やってみます！」
『ええっ！本気！？』
再び響く困惑と狼狽と驚愕の三重奏。
やり方を教えてくれと迫るカレンはひたすら真剣だ。ティピとルイセは責任を
とってなだめろと言わんばかりに、ミーシャの小脇をつついて促した。
「えっと、えっとぉ。いい？カレンさん。
まず、エプロンの格好でゼノスさんの前に登場するでしょ。
クルリと１回転して、『どうかしら？』と聞く。
右斜め４５度の流し目で見つめ、間を置いてからハラリとエプロンを取る。
そして、ゼノスさんが絶句している隙に抱きつく。
わかった？手順は覚えた？」
「ミーシャ！ほんとにやり方教えてどうするのよぉ！」
慌てて止めに入るルイセだったが、もう遅い。ミーシャの説明にカレンは自信
たっぷりに頷いた。ティピは不安ながらも、カレンがやる気になってしまって
いるので止めることができない。すっかり開き直っている。
「こうなったら、なるようになれだな。
決行は今晩。結果は明日聞きに来るからね。」
そして、その夜………
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「兄さん？」
「ん？なんだ？…おわっ！」
「あ、あの…兄さん…」（クルリ）
「あー、びっくりした。作ったのか？」
「え？…ええ…どうかしら？」（ハラリ）
「お揃いで洒落てるじゃないか。
とは言え、まだ寒いから早く着替えた方がいいぞ。
夏までとっておけよ。」
「ええ、そうね。」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
そして、翌日………
「って、それだけーー！？」
「嘘でしょーー！？ ゼノスさんってどっかおかしいんじゃないの？」
カレンに昨夜の会話を聞いたティピとミーシャは驚いた。まさかそこまで露骨
に迫られても気付かない男がいるとはにわかに信じがたい。例え女性に関心の
ないホ○だとしたって、ここまであからさまなら気付くはずだ。気付いていな
がら芝居しているのだろうか。いや、ゼノスにそんな芸当が出来るとはとても
思えない。ルイセも訝しく思い、カレンに聞き直してみた。
「えーと、カレンさん？ ホントに裸にエプロンだったの？」
「ええ…、あの…、でも、やっぱり恥ずかしいんで、
白いビキニの水着を着ていたんだけど…、いけなかったかしら…？」
「いけないも何も…」
「どーりでそういう会話になるわけだわねぇ。」
「ありゃ、まぁ。」
３人は盛大に溜息をついた。やっぱり根本的に、カレンはこの作戦を理解して
いなかったようだ。もっとも何も知らないカレンに、あんな説明で理解しろと
いうのは酷な話ではある。（何も知らないというのも問題ではあるが、それは
ひとまず置いておくことにする。）がっかり顔の３人に囲まれて、カレンだけ
が相変わらず意味がわからない顔つきでいた。
「それにしても、ゼノスさんも冷静ねぇ。
いくら水着着てたって、もうちょっと動揺してもよさそうじゃない？」
「う〜ん、確かに。」
ミーシャとティピはゼノスの反応に、どうにも納得がいかない。多少の不備は
あったが、もうちょっとリアクションがあってもよさそうだ。話の感じでは、
昨日のカレンがゼノスの裸を見たときと同じ様なリアクションだ。ティピはお
ずおずとカレンに聞いてみた。
「カレンさん？
もしかして、カレンさんも裸で家の中うろついたりするの？」
「まさか！そんなこと！！」
「そーだよねぇ。」
「ただ、小さい頃は兄さんにお風呂に入れて貰ったりはしたかしら。
あっ、でも、本当に小さい頃よ。
水着姿ぐらいなら、夏には海とか湖に行くから見慣れているわね。」
「そういうことか…」
再び溜息が漏れる。この２人の関係を恋人同士にするのは、かなり根気がいり
そうだと改めて実感させられる。兄妹というよりもゼノスは殆ど父親代わりと
言っていい。下手すると、カレンのおしめを換えるぐらいのことはしている。
これではカレンの裸をちょっと見たぐらいでは動揺しないだろう。カレンが迫
る以前にゼノスの意識改革が必要だ。頭を抱える３人娘は、いっそのこと記憶
喪失にでもなってくれないものかと真剣に考えたのだった。
……続きそうですよね、ねえ皆様？…もちろん続きます☆
『危機』へ
じつはあらら様は、コレを一番お書きになりたかったそうです（ネタばらし(^^;）
今までのは前振りだったんかーーー（爆）
ということなので、私も気合をいれて、背景のピンクを濃くしてみました〜♪（＜そんだけかい）
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