『二人の噂』

　　　トゥルルルル・・・・
　　　電話がなった。公は受話器を取る。
　　　「主人です。」
　　　「早乙女だけど・・・。」
　　　親友の早乙女好雄であった。
　　　「よう、なんだ？」
　　　「おい、あの美少女誰だよ。今日、伝説の樹の下で一緒にいた子だよ。それに
　　　　おまえが、見た事もないすごい美少女と一緒に歩いてたってすごい噂になって
　　　　るぞ。
　　　　おまえ、教室になかなか帰ってこないから、俺、先に帰っちまったけど。」
　　　そう、あの後、公とレイは理事長室に行っていたのだった。家訓を破って
　　しまった彼女は、理事長である祖父と話つけなければいけなかったから。
　　そう考えて自分が黙り込んだのせいか、好雄が話を続けてくる。　
　　　「おい、どうしたんだ？もったいぶらずに教えろよ。あんな女の子、卒業生
　　　　にも、在校生にもいないはずだぞ。」
　　　「あ、ああ・・そうだな・・・誰だと思う？実は、おまえも知ってる子だよ。」
　　　（そういえば好雄の記憶を操作した事を、彼女謝りたいって言ってたけど
　　　　こいつ、まだ思い出せないのかな。）
　　　「え、どういう事だ？」
　　　「おまえにも、少しは驚いてもらおうと思ってさ・・・。」
　　　「おまえなー、いい加減にしろよ。」
　　好雄の怒声に、こんなものでいいかと思う。　
　　　「ごめんごめん、じゃあ、言うよ。」
　　　「うんうん。」
　　　「あれは・・・」
　　　「ふんふん。」　
　　　「伊集院さんだよ。」
　　　「え？、伊集院に妹なんていたっけ？」
　　　「おまえ、俺と同じ事言うな・・。違うよ。
　　　　伊集院レイ、ほ・ん・に・んだよ。女の子だったんだ。彼女。
　　　　伊集院家のきまりだとかで、高校卒業まで外では男のふりをしなけりゃ
　　　　いけなかったんだってさ。」
　　　「どっひゃー、まじか？冗談じゃないだろうな？」　
　　　電話のむこうで、好雄がすっとんきょうな声をあげる。
　　　「こんな嘘くさいこと。冗談で言えるか。」
　　　「うへぇ、これは、超最新重大ニュースだぜ。メモメモ・・っと。
　　　　あれ、その話、どっかで前に聞いたことあるような・・。」　　
　　　「そ、そうか。気のせいじゃないか。」
　　　「ま、いっか。それで、あの樹の下にいたってことは、もしかして、おまえ
　　　　告白されたとか・・・。」
　　　「まあな。」
　　　「で、どうしたんだ？　おまえ、あんな奴の告白受けたのかよ？」
　　　「受けたよ。それに、彼女は良い子だよ。３年間もひとりで辛い思いを
　　　　してたんだぞ。男のふりは、好きでやってた訳じゃないんだから。」
　　　「そりゃそうだろけど・・・、でもそう考えると、ちょっと可愛そうかな。
　　　　それにしても、電話じゃなんだな。明日、あいてるか？」
　　　「いや、実は彼女と約束している。」
　　　「よし、じゃあダブルデートだ。俺も、見晴をさそうから。
　　　　明日、どこだ？」
　　　「ショッピング街だけど。」
　　　「時間は？」
　　　「午後２時。でもさ・・・」
　　　「じゃあ明日、そこでな。」
　　　「おい・・、」
　　　（もう切れてるよ、強引な奴。しかし、伊集院さんに無断で約束しちまった。
　　　彼女とふたりで話がしたかったんだが、俺、彼女の事、まだなにも知らないし。
　　　とにかく、電話しなきゃ。）
　　　この三年間、何度もかけた覚えのある番号を押す。
　　　（なんか、緊張するな・・・。）
　　　「はい、伊集院です。」
　　　いままでとは違う声で、彼女がでた。
　　　「主人ですけど・・。」
　　　「主人さん？　どうなさったんですか。」
　　　「実はさ・・・・・」
　　　公は、さっきの好雄との話を説明した。
　　　「解りました。私も、早乙女くんには謝らなきゃいけませんし。」
　　　「じゃ、とにかく、俺は、君の家まで迎えに行くから。」
　　　「はい。待ってます。」
　　　「じゃ、明日ね。」
　　　「お休みなさい。」
　　　「お休み。」
　　　電話を切る。
　　　（なんか、照れるな・・。）

　　　ちなみにそのころ、好雄は、学校中の知り合いに電話を掛けまくっていた。
　　もちろん、この大ニュースを伝える為である。学校中の生徒に知れ渡るのは、
　　時間の問題であった。

　　…翌日

　　　「あの、いつもこんなに人、多いんですか？」
　　　ほとんどここに来た事がないというレイが、公に訪ねる。
　　　「いや、そんなことないと思うよ。確かに、なんか多いな。」
　　　二人はショッピング街に来ていた、初めてのデートである。今日の彼女は
　　当然、私服だ。ブラウスにフレアースカートという、意外と地味な服装だが
　　かえってそれが彼女の美しさを引き立てている。
　　　今日は好雄といっしょのダブルデートということになってしまった。
　　好雄は、彼女である館林見晴を連れてくるらしい。
　　　それにしても、今日は高校生ぐらいの若い子がいやに多いような気がする。
　　　（しかも、なにか視線を感じるような気がするんだが。）

　　　「おーい、公。」
　　　好雄の声がした。公は声のした方へ向く。
　　　「好雄に、館林さん・・・。えっ、クラスの奴らじゃないか？」
　　　好雄達の回りには、見覚えのある元同じクラスの生徒達がいた。男子生徒が
　　ほとんどである。他のクラスの者までいた。
　　　公たちが近づいていくと、好雄が二人を見て言った。
　　　「よう。えっと・・・、こっちは伊集院さん？」
　　　「はい。」
　　　レイが、恥ずかしそうにうなずいた。
　　　「あの、ごめんなさい。早乙女くんには、前、迷惑をかけてしまって・・・。」
　　　「えっ？　なんのこと？」
　　　その会話に公が割り込む。
　　　「おっと、その話は後だ。
　　　　好雄、それより、なんだこの人だかりは？」
　　　「ごめん、実はさ、今日おまえらに会うっていう話をうっかり言ったら
　　　　みんな来ちまってさ。」
　　　「言ったって、いつ？」
　　　「きのうと、今日、電話でに決まってるだろ。あんな重大ニュース、すぐ、
　　　　伝えないと。もう、学校中の噂だぜ。」
　　　「・・・・・・」
　　　公は、頭を抱えたくなった。

　　　「おい。」
　　　好雄が、肘で公をつつく。
　　　「なんだよ。」
　　　「俺にまで、隠しとくなんてずるいぞ。おまえ、前から、彼女と付き合って
　　　　たっていうじゃないか？
　　　　どうりで、他の女の子に見向きもしないはずだよな。」
　　　「え？」
　　　「しかも、実は彼女とは、昔からの許嫁だったとか？」
　　　「はあ？何だ、それ。」
　　　「そういう噂だぞ。」
　　　好雄のところから、噂が一周するうちに、そう言う事になったらしい。噂が
　　訳わからんものに変わるのは、高校生活でよく解っていた公だったが、一日で
　　これとは。
　　　（まいったな・・・。）
　　　「おい、それどっちも嘘だぞ。彼女の事は、昨日はじめて知ったんだから。」
　　　「嘘つけ。さっきだって、そんな感じじゃなかったぞ。
　　　　それに、昨日、二人で理事長室から出できたっていう、目撃証言もある。」
　　　「証言って・・、確かに昨日、理事長室には行ったけど。」
　　　「やっぱりな、つまり、理事長公認てことは、伊集院家公認で、付き合って
　　　　るってことじゃないか。」
　　　「そういう事に、なるのかな・・。」
　　　もう、噂を否定する気力がなくなって、公は、あいまいに受け答えした。

　　　ふと見ると、レイが、男子生徒に囲まれて困っているようだった。
　　　（まったく、男ってヤツは・・・。）
　　　自分もたいして変わらないのだが、それについては考えないことにする。
　　　レイが公の方を、助けを求める様な目でみる。
　　　「おい、雑魚は散った散った。伊集院さんが困ってるじゃないか。」
　　　男子たちをどかして、彼女のそばに寄る。ほっとしたような顔をして
　　レイが公の横に来る。
　　　男子たちのひやかす声が聞こえたが。公は気にしない事にする。一応、彼女を
　　見て満足したのか、皆、それぞれ去って行った。

　　　今度は、女の子達が寄ってきた。
　　　「詩織、それに優美ちゃんも・・・。」
　　　「公くん。」
　　　公は、いきなり詩織に頬をたたかれた。
　　　「これで許してあげるわ。鈍感男さん。」
　　　「なんだよー。」
　　　公は何だかよく解らない。すると横から、レイが静かな声で言った。
　　　「藤崎さん・・・・。
　　　　それでいいんですか？」
　　　詩織が、レイを見る。少しの間、見つめ合っていたが、すぐに、詩織が
　　笑顔を見せて言った。
　　　「いいのよ。素直に行動した、あなたの勝ちだわ。
　　　　こんな鈍感男、苦労するわよ。」
　　　すると、べつの方向から、元気な声がした。
　　　「藤崎せんぱーい。ずるいー。
　　　　優美もやっていいですかー。」
　　　「どうぞ。」
　　　「いいって、何が？」
　　　公が言う間もなく、今度は、好雄の妹の早乙女優美に殴られた。プロレス技を
　　かけられなかっただけましだが。
　　　「いってー。」
　　　「優美も、これで許してあげます。」
　　　「許すって、何が。」
　　　「鈍感な人には、教えてあげませーん。」　
　　　「じゃ、優美ちゃん、私たちは、女の子どうしでケーキでも食べに行こっか？」
　　　詩織が、優美に話しかける。
　　　「はい、優美、チョコレートパフェがいいです。」
　　　「じゃ、お二人さん、お幸せにね。」
　　　詩織たちは、他の女の子達と話しながら、雑踏の中へ消えて行った。

　　　「何なんだ？いったい。」
　　　頬をさする公に、好雄が言った。
　　　「おまえ、ほんとに鈍いんだなー。」
　　　続けて、レイが言う。
　　　「主人さん、本当に気がついていないんですか？」
　　　「何が？」
　　　「それなら、私も教えてあげません。」

　　　皆が行ってしまい、残ったのは４人だけになった。
　　　今まで黙っていた、見晴が言った。
　　　「あの、私、伊集院さんのことなんとなく気づいていました。」
　　　「え？」
　　　レイが驚いて見晴を見る。
　　　「だって伊集院さん、よく主人さんのこと見てましたから。」
　　　「え、何でそういう情報、俺に教えないんだよ。」
　　　今度は好雄が言った。
　　　「だって、はじめは男の人なのに、主人さんのことが好きなのかと思ったん
　　　　だけど、よく考えたら、女の人じゃないかと思って。伊集院さん、体育の
　　　　授業とか、ほとんど出てないし、修学旅行にも来てなかったでしょ。
　　　　そうだとすると、何か訳があるだろうと思って。好雄くんなんかに言ったら
　　　　どうなるかわからないじゃない。」

　　　「そう、私、早乙女くんには、謝らなきゃいけないんです。」
　　　レイが言った。
　　　「え？なにが。」
　　　「あの、以前、早乙女くんが倒れたときなんですけど・・・。あの時、記憶を
　　　　操作したんです。
　　　　ごめんなさい。」
　　　「記憶操作って、何の？」
　　　「私が祖父と話しているのを、早乙女くんに聞かれてしまって、女の子だと
　　　　ばれてしまったから・・・。」
　　　「あっ、何となく思い出してきたぞ。そう、それを公に言おうと思ったら・・」
　　　「そうです。本当にごめんなさい。」
　　　「いや、まーいいや。こんな美人に謝られちゃ、男としては許さない訳には
　　　　いかない・・・って、いって～。」
　　　　好雄が腕をさする。見晴につねられたらしい。
　　　「それにしても、見晴は、よく気がついたな。」
　　　「それは、以前は私も見て・・・。いえ、女の子は感がいいんですよ。
　　　　私の他にも気がついてた人いるんじゃないかな？」
　　　「そういうもんなのか？」
　　　「そういうもんなんです。」

　　　「なあ、そろそろ行かないか、せっかく買い物に来たんだからさ。」
　　　間をみて、公が口をはさんだ。
　　　「ああ、そうだな。
　　　　お姫様は、何が見たいんだ？」
　　　好雄が見晴に聞く。
　　　「私、新しい髪どめ欲しいな。アクセサリー屋さんに行くんじゃだめ？」
　　　「伊集院さんは？」
　　　今度は、公がレイに聞いた。
　　　「あ、私も、それがいいです。アクセサリー屋さんて、入ったことないし。」
　　　「はいったことないの？」
　　　「だって、男の子の姿じゃ、変でしょ。」
　　　見晴が言う。
　　　「伊集院さんは、きれいだし、髪も長いから選びがいがありますよねー。」
　　　「おまえだって、かわいいぞ。」
　　　「やっだー、好雄くんたらー」
　　　じゃれあう二人を見て公は、いつか自分たちもあんな風になれるかと考える。
　　　横にいるレイを見ると、やはり二人を見ていた。公はちょっと思いついて、
　　レイに言った。
　　　「ねえ、手ぐらい、つながない？」
　　　「えっ、はい。」
　　　レイは、ちょっと赤くなって、公の方に手を寄せる。公は、そっとレイの手を
　　とる。公の手と比べると小さくて細い手だ。暖かい感触が手のひらに広がる。
　　　公は思った。
　　　（先の事ばかりを考えていても仕方がないな。そう、俺たちは始まった
　　　ばかりなんだから・・・。）　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｅｎｄ

なんか女の子達がドライですけど(^^;…どろどろすんの嫌いなんで…。
まあ、女の方がドライで現実的なものなのよ…（＜私的意見）
…ここまでお付き合いして下さった皆様、どうもありがとうございました。m(_ _)m

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