斗村様の『歌垣』

歌垣(うたがき)
夜も更け、全てが眠りに着く前の僅かなひと時。グランシルの街の入り口近くにある一軒家から、灯りと共に微かな笑い声が洩れていた。　「もお・・・　そんなに笑わないでよ兄さん」女性の怒ったような口調に、それでも兄と呼ばれた青年───ゼノスは肩を震わせて笑っている。　「だ、だってよぉ・・・　あのウォレスを、よりにもよって・・・ふ、『不能』だなん・・・てっ、ハッ、ハハハッ！！」一度は抑えた笑い声が再度繰り返され、ゼノスは苦しげに椅子の上で身を捩った。女性は用意した香茶をテーブルへと置きながら、　「だから、『そうかもしれない』って言っただけで、決め付けた訳じゃ　　ないのよ？」頬を染めて、その場で懸命に弁明する妹───カレンを手で制して、目の前に置かれた香茶に手を伸ばした。コムスプリングスで久し振りに仲間達と集ったのも束の間、一人の少女が発した言葉によって場が凍りついてしまい、その後の予定を続けることが出来なくなってしまった。しかも原因がカレンと、、もう一人の女性騎士にあるのは明白で、ゼノスは女性騎士の恋人の妹が操るテレポートで街まで送ってもらった後に、漸くカレンから事の経緯を聞き出したのだった。曰く、『少女の恋人が本当に少女を愛してくれないのは、昔の傭兵家業で何らかの原因によって、不能になってしまったからではないのか？』そしてゼノスは大爆笑してしまう羽目となった。　「判ってるって。しっかしお前、そんな話何処で仕入れてくるんだ？」　「仕入れてって、私は保養所に勤めているのよ？　知識は勿論だけど実際にそういった人も居たし・・・」薬草類の扱いに長けているカレンは、それぞれの患者の症状によって薬草を配合するのは勿論のこと、患者が抱えている様々な悩みを聞くのも治療の一環としていた。　「そーだよな。保養地なんだからそーいった人間もいるよな・・・」笑い過ぎて渇いた喉を湿らせながら、ゼノスは納得したように頷いた。極度の緊張状態が精神を蝕み、本来備わっている『欲求』という機能が正常に働かなくなるのはゼノスも知っているし、目にしたこともある。その状態に陥った男達は気力も覇気も無くしてしまい、生きる屍という他ない。欲を無くした人間とは何と空しい存在であろうか・・・　「ま、特に傭兵家業をやってる奴らは極端から極端に走り易いしな。不能に陥る奴もいればその逆もいるし、野郎同士とゆーのもあるしな」　「その逆？」『野郎同士』というのはカレンにも意味が判る。長い期間、男（もしくは女）しか居ない制限された生活の中で、互いの性欲処理の為に身体を求め合うことは特に珍しいものではなく、場所や状況が限定されればされるほどその傾向に陥り易い。では、『逆』という意味は？カレンが小首を傾げると、長い金の髪が一房ゼノスの片腕に舞い降りた。昼間は常に後ろで緩やかに纏められている髪は、今は解かれて部屋の灯りの元、淡い光沢を放っている。　「ずっと、勃ちっぱなしとゆー意味さ」　「えっ？！」露骨な言葉にカレンは頬を紅潮させた。　「昔の傭兵仲間にも興奮状態が治まらなくて、何回女を抱いても萎えない奴が居たんだ。何時も一度に２、３人の女を相手にしていたにも関わらず、萎える程の満足は得られず、そして興奮も収まらない。それの繰り返しでさ・・・」ゼノスが金の髪に指を滑らせ、巻きつけては梳けるといった動作を繰り返すのを、カレンは見るともなしに見つめていた。　「で、でも、それじゃ・・・」「あぁ、神経がもたねぇよな。傭兵ってのは頭使わねーように思われてるけどよ、実際は逆なんだぜ？　状況に応じて意識の切り替えをしなけりゃやっていけねー家業なんだ。どんなに神経が図太かろーと、頭の回転が早かろーと、これが出来なきゃ生きていけねーんだ」ゼノスが自身の家業について語ったのは初めてであった。カレンに余計な心配をかけたくなかったのは勿論であるが、元来自身の考えを言葉で表現するのが苦手であったからである。　「兄さん、結局その人はどうなったの？」　「・・・死んだよ」ある程度予想していたとはいえ、ぽつりと呟いた言葉の重みに、カレンは息を飲んだ。　「娼婦の館の一室であいつは・・・女達を巻き添えにしてな・・・　　ひでぇサマだったぜ。部屋中血だらけで、あいつは自分の首を切って　　死んでいやがった・・・」男の名前は忘れてしまったというのに、当時の光景は今でも鮮明に思い出すことが出来る。部屋の壁だけではなく、天井にまで撒かれた血飛沫と、床に転がる肉の塊は、元居た人間の数も判らない程に散乱していたことを─── その中に唯一、人間の形を保ったモノが横たわっていた。この部屋の惨状を引き起こした男の顔は、それまで見てきた焦燥と憤りに彩られていたとは思えない程、安らかな表情をしていた。更に、これまで興奮状態だった男の『証し』は、皮肉にも漸く落ち着きを取り戻していたのであった。当時ゼノスは、男の死を『無様な死に方』と侮蔑したのだが・・・　「今思えばあいつがあんなになっちまったのは、あいつの心が満たされていなかったからだ、と俺は思ってるんだ」ゼノスはカレンの髪を握りしめ動作を止めた。　「傭兵家業も、女も、自分の人生全てにあいつはどれも満足出来なかったんだよ。満たされない思いが溜まってしまった結果があの最後だった。一つでも何か満足出来るものがあれば、あいつはあんな風にはならなかった筈だ」戦うことに満足するなら戦う為に生き続け、女を抱くことに満足するのであれば抱く為に生き延びる。極論であるが人生の目的など簡単で判り易いものではないだろうか？　「じゃあ・・・兄さんは？」不意に問いかけられ、ゼノスは意識をカレンへと向けた。　「兄さんは、その時どうだったの？　満足していたの？　仕事にも・・・お、女の人にも・・・」ゼノスとて健康な男なのだから、これまで女性と関係を持ったことなどない、などとカレンは思ってはいない。それでもやはり、自分の兄が───今では恋人であるが───見知らぬ女性を抱く姿など想像したくもなかった。何故なら嫌悪感よりも激しい嫉妬心に支配された自分自身が、とても醜い女であることを自覚したくなかったからである。そんなカレンの心情を他所に、ゼノスは当時のことを思い出していた。　「・・・そうだな。仕事は自分で選んだんだから、ある程度満足していた。　　女は・・・そう言えば・・・初めての時にな───」昔、仲間内の酒の席で『女との経験が無い』とゼノスが一言洩らしたばかりに、酔った連中に連れられて初めて娼館へ行った時のこと。自分とは年が一回り離れている、と明るい調子で話しをする女は、娼婦特有の荒んだ印象からは程遠い、ごく普通の女に見えた。一つ一つの動作に説明をしながら事を進めていく女に戸惑い、されるままにやがて達してしまったゼノスは、快楽よりも先に罪悪感を抱いてしまった。『こんなことをもし、カレンが知ったら・・・』身体が萎縮してしまい、行為を続けることが出来なくなってしまったゼノスを、女は優しく抱き寄せた。　「好きな子が居るのかい？」　「・・・・・・」　「じゃあ、嫌われたくない子が居るんだね？」前者の問いには当時『妹』であったカレンを完全に当てはめることが出来ず返答に躊躇したが、後者の問いであれば不自然ではないので首肯した。　「じゃあ尚更、最初が肝心だ。しっかり覚えていくんだね。間違った知識は、あんたも、あんたが本当に好きな子も傷つけてしまうんだからね。いーい？　あんたも男なんだから、女を抱いて欲求不満を晴らすこともあるだろうけど、抱くならあたしらのような玄人にしときな。絶対素人女に手を出すんじゃないよ、いいね？」　「な、なんでだ？」念を押す口調は真剣で、ゼノスは思わず気圧されそうになるが、　「馬っ鹿だねぇ、後々面倒なことになるからだよ。それにそんな女に手を　　出されたらあたしらの商売あがったりじゃないか」一転してけらけらとひとしきり笑う女に、次第に緊張が解けていった。　「それとね、これがもっとも大事なことなんだけど。あんたの出す『汁』を玄人女の中に出さないこと。たとえ相手が『中に出して』と強請っても出しちゃいけないよ」　「・・・それも後々の為なのか？」　「まぁ、それもあるけど。中に出すのは、あんたが本当に好きで好きでたまらない女だけに与えられる特権だってこと。その方が本当の意味で気持ち良くなれるからさ、判った？」再度女の真剣な表情に、ゼノスは『気持ち良い』の意味もまだ判らぬまま思わず頷いてしまった。その後、仕事で訪れた街々で何度か娼婦と身体を重ねたことはあったが最初の印象が強かった所為か、女の中で達することはなかった。やがて自分の中で、カレンの存在が強くなったことを自覚したゼノスは、女を抱くこと自体をやめてしまった──── 　「あの人に感謝しないとな・・・　あの人に会わなかったら俺は見境なく女に手を出して、とんでもない目に遭ってたかも知れねえからな」　「・・・私も感謝しないといけないわね」　「ん？」　「だって、兄さんが・・・その・・・初めて私の中に出してくれたのよね。　　・・・とても嬉しかったの。そして・・・気持ち良かった・・・」恥じらいながら囁くカレンがとても愛らしくて、ゼノスは手にしていた金の髪を軽く引っ張り、それにつられたカレンが頭を下げたところで軽く唇を重ねた。そして微笑んで、　「俺もだ。お前の初めての男になれて嬉しかったし、それにお前の中は気持ち良くってさ・・・最高だ」両腕を立ったままのカレンの腰に廻して引き寄せ、今度は深く口付けた。舌を入れ、ゆっくりと口の中を蹂躙すると、微かに震えているカレンの柔らかい舌先を探し当て、自身の舌をそれに這わせた。　「・・・ん・・・ふ・・・ぅ、はっ・・・」なぞるような舌の動きに唇の隙間から吐息が漏れ出す。逃れようにもゼノスの片手が、しっかりと頭の後ろを押さえていて逃れることが出来ない。震える舌を裏側までも念入りになぞり、絡めとって吸い上げる。次第に息が上がるカレンは、両手をゼノスの肩へ置いて力が抜けていく自身の身体を支えた。ゼノスはそのままの状態で、カレンの纏っている部屋着のみを取り去った。身体全体が外気に触れカレンは咄嗟に唇を離して狼狽した。　「あ、駄目！」　「何でだ？」目の前に現れた白い裸体はうっすらと紅潮し、大きくて形の良い乳房の先はすでに硬く尖って自己主張を始めていた。ゼノスは首筋に口付け、片方の乳房を下から持ち上げて軽く揉みしだく。　「だ、だって、こんな所で・・・それに、灯りが・・・」身体を重ねる時は、必ず寝室で灯りを点けないというのが暗黙の了解であった。『見られている』ことを意識すると極度に緊張してしまい、行為に集中出来ないというのはカレンの弁である。それでも夜目が利くゼノスには余り意味の無い制約であったのだが。これまではカレンの意を汲んで、暗闇の中で彼女を愛しんでいたが、今日はそのままの状態でカレンを味わうことにした。身体中に刻まれた紅い印を消す為に、暫く夜を共に過ごすことが出来なかった反動と、初めて明るい場所で目にした白い裸体に、既に気持ちを抑えることが出来なくなった為である。求めるようなゼノスの手の動きを、カレンは妨げようとするがそれより先に、もう片方の乳房に暖かい吐息が掛かった。　「はっ・・・！　・・・ぅ」思わず嬌声が上がるのを必死に抑え、耐えているカレンの反応を楽しむかのようにゼノスは尖った乳首を舌で転がす。片方の乳房は掌に包み込まれ、もう片方の乳房は先端を口に含まれた状況に、カレンは『拒絶しなくては』と冷静な部分で意識を奮い立たせるものの『身を委ねたい』という女の本能が次第に心と身体を支配していく。片手を背筋に這わせ、執拗に両胸を愛撫するゼノスは、やがて微かな音を耳にした。自分の目線よりも下の方から聞こえてくる、カレンが唯一身に着けている薄布の更に奥・・・身悶えする度に聞こえるぬかるんだ音。 ───　享楽の証し　─── ゼノスは掌を胸から腹部へと滑らせ、秘丘を覆うようにしながら指を太腿の奥で止めた。案の定、カレンの秘所は薄布の上からでも判る程にしっとりと湿っていた。　「あっ、やぁ・・・！」腰を引き、力の入らない両足を閉じようとするカレンに、ゼノスは片方の足を割り込ませ動きを妨げると、薄布の上から秘所を愛撫し始めた。割れ目に沿って擦るようになぞり、蜜が湧き出ている奥深い場所を軽く押すと、カレンが一際高い嬌声を上げた。本能の波に呑み込まれ、身体が更なる快楽を求めるのをカレンは止めることが出来なくなり、やがて指の動きに合わせて身体を揺らし始めた。　「ん・・・ぅん、・・・はぁん」細腕をゼノスの首に廻して震える身体を支え、耳元で甘い吐息を洩らすカレンを全身で感じ、ゼノスの中心も熱くなっていく。「・・・カレン・・・」促すような囁きと同時に、片腕を握られ下へと導かれたその先には、硬くて熱を伴ったゼノス自身がそそり勃っていた。　「あ・・・」指先で軽く触れると滑らかな表面が震え、それに呼応するかのようにカレンの奥底から熱い滴りが湧き出てくる。硬いそれを両手で包み込むように握りながら、カレンはゼノスの両足の間に顔を埋めた。　「・・・っ！」ぴちゃり、と音を立てカレンがゼノス自身の先端を舐めると、ゼノスは思わず洩れそうになる声を堪えて、意識を自身へと集中させた。柔らかな舌は先端からやがて太い部分へと移り、そして根元へと降りて行く。特に感じる裏側を、ゆっくりと何度も舌を這わせ軽く口付けられると、ゼノスは奥歯を噛み締め頂点に達してしまいそうな意識を必死に抑えつける。次第に熱くなる身体を冷ますように、ゼノスは服を脱ぎ捨てた。その間もカレンはゼノス自身を愛撫していた。小刻みに震え、色を変え、硬さが増していくのを口の中で感じ取っていた。　「カ、カレ・・・ン、もう・・・いい・・・」静止の声に何時であれば愛撫をやめるのだが、今日は違った。頬張るように口と舌で抽送を繰り返し、強く吸い上げて前後に動かす。　「カレ・・・っ　離れ・・・！」強い口調にそれでも拒絶するように首を振ると、浅く咥えていた自身を一気に深く含み込んだ。自身に絡みつく口内の感触に、ゼノスは耐えていたものをそのまま吐き出してしまった。　　「んく！　んんっ！・・・ふ・・・っ」口元を押さえて白濁した飛沫を嚥下するカレンの姿は、灯りの元にあってとても妖艶で、更なる情欲を掻き立てられる。ゼノスは椅子から立ち上がりながら、全てを飲み乾し吐息を洩らすカレンを抱き上げると、テーブルの上に横たえた。　「な、何？　・・・はあぁっ！」薄布を素早く取り去り、大きく広げた両足を肩に乗せ動作を制限すると、熟れて愛蜜を溢れさせている秘所に口付けた。貪るように舌で蜜を掬い取り、音を立てて啜ると甘い喘ぎ声と共に、次々と新しい蜜が湧き出る。それでも足りなくなると、指を入れてかき回し、上の方でぷっくりと膨らんでいる花芯を指で軽く撮み、或いは唇で食んで催促するとカレンの身体が波打つように跳ねて新たな蜜をゼノスに供給する。次々と溢れ出る透明な蜜は餓えた心と喉を潤し、喘ぐ声は欲望と共にゼノス自身を再度勃たせる。　「は、あん！　はっ・・・あうっ・・・あっ、やあぁぁ・・・！」嬌声と共にカレンの身体が小刻みに震えた瞬間、力が抜け落ちたように全身の緊張が解けてしまった。軽く達してしまったのだ。ゼノスは肩に乗せていたカレンの両足を下ろして、身体を抱き起こした。互いの素肌から伝わる熱と鼓動を感じ合う、この瞬間がとても好きだった。そして、これから更なる高みへと上るのだが、それには一つの言葉が必要だった。その言葉をカレンの口から告げて貰わなくてはならない。　「・・・カレン・・・」身体が紅潮し、陶酔しているように瞳を閉じていたカレンが、ゼノスの呼びかけに応えた。甘い吐息に乗せ望んでいる言葉を耳元で囁く。　　「・・・ゼノス・・・」カレンを心から愛するには、ひとりの『男』に戻らなくてはならなかった。『兄』ではなく『男』となってカレンを愛することを許される言霊。今、それを手にしたゼノスは深く口付けて意思を伝え、カレンを床へと降ろすと後ろを向かせて足を開かせた。　「あ、ああっ！　・・・ふぅ、はぁ・・・ぁ」後ろからの挿入に押されて、カレンは身体の中の空気をゆっくりと吐き出す。そうすることによって、ゼノス自身が最奥まで辿り着くのを手助けするかのように、そしてカレンもより深く感じる為に、テーブルの端に掴まりながら腰を突き出して力を抜いた。カレンの中は熱く溶けていて、奥に進むごとに肉襞が絡みつきながら侵入を手助けしていく。やがて最奥に辿り着くと全体が歓喜に震え、ゼノス自身をきつく絞めつけた。　「く・・・っ、カレン・・・」　「あ・・・ゼノス・・・ゼノス・・・」自分を求める声にゼノスは抽送を始めた。本当は中の感触をもっと味わいたかったのだが、本能がカレンを欲して歯止めが利かなくなってしまった。深く腰を打ちつけ、浅い部分で動きを止めるとカレンの中が空虚さに咽び泣く。それを何度も繰り返すと次第にカレンの肉襞が断続的に震え始めた。ゼノスも絶頂に達する為に激しく腰を打ち付ける。　「カレン、愛してる・・・カレン・・・！！」「私も、愛してる・・・愛してるわ、ゼノス！　あっ、はああぁぁ・・・！！」嬌声と同時に激しく収縮するカレンの中で、ゼノスは思いのたけを勢いよく注ぎ込むと、中に染み渡る飛沫にカレンは再度身体を震わせ達してしまった。溢れ出る二人の快楽の証しは、交じり合いながら太腿を濡らして流れ落ちていった─── 　「・・・ん・・・」カレンが目を覚ましたのは柔らかいベッドの中だった。カーテン越しからうっすらと光が射し始めている。どうやら朝方のようだ。横では何時も通りゼノスが眠っていた。互いに一糸纏わぬ身体には昨夜の余韻がまだ残っている。三度目までは記憶しているがその後は覚えていない。カレンは朝食の用意の為、身体を起こそうとした。すると腕を引っ張られゼノスの逞しい胸の中に戻ってしまった。　「起きてたの？」　「・・・カレン・・・　俺、この街から離れようと思ってるんだ」突然の言葉に、カレンは気だるさの残る身体を起こしてゼノスを凝視した。　「この街が嫌いだとか、そういったことじゃないんだ。・・・ただ、この　　街に居る限り、俺とお前は単なる仲の良い兄妹にしか見られない。俺は・・・嫌なんだ」不安気に見つめるカレンの頬に手を添え、視線を合わせた。　「俺はお前を一人の女として愛したいし、一人の男として愛してもらいたい。いくら俺達が本当は血の繋がりが全くなくて一緒になれる、と言っても以前から俺達のことを知っている人間は、正直、納得してくれないと思うんだ。だから・・・っ」ゼノスの言葉を遮るように、カレンが軽く唇を重ねた。　「私も同じ気持ちよ。妹としてではなくて一人の女として周りの人に　　見て貰いたいの。だから・・・」　『一緒に・・・生きて行こう』　　『一緒に・・・生きて行きましょう』それこそが、二人の唯一無二の願いであるのだから・・・ ───　数ヶ月後　─── ローランディア北西部に開拓団が入り、一つの小さな村が形成された。わずか十数人のその中に二人の姿はあった。紅い髪の青年は、その逞しい体躯と持ち前の腕前で村の自警団の隊長となり、長い金の髪の女性は、薬草類の知識を持って治療所を始めた。仲睦ましい『恋人同士』に周囲は結婚はまだか？　と言葉を掛けるのが日課となっているという───

歌垣(うたがき)
　　

夜も更け、全てが眠りに着く前の僅かなひと時。

グランシルの街の入り口近くにある一軒家から、灯りと共に微かな笑い声
が洩れていた。
　「もお・・・　そんなに笑わないでよ兄さん」
女性の怒ったような口調に、それでも兄と呼ばれた青年───ゼノスは肩を
震わせて笑っている。
　「だ、だってよぉ・・・　あのウォレスを、よりにもよって・・・ふ、
『不能』だなん・・・てっ、ハッ、ハハハッ！！」
一度は抑えた笑い声が再度繰り返され、ゼノスは苦しげに椅子の上で身を
捩った。女性は用意した香茶をテーブルへと置きながら、
　「だから、『そうかもしれない』って言っただけで、決め付けた訳じゃ
　　ないのよ？」
頬を染めて、その場で懸命に弁明する妹───カレンを手で制して、目の前
に置かれた香茶に手を伸ばした。

コムスプリングスで久し振りに仲間達と集ったのも束の間、一人の少女が
発した言葉によって場が凍りついてしまい、その後の予定を続けることが
出来なくなってしまった。しかも原因がカレンと、、もう一人の女性騎士に
あるのは明白で、ゼノスは女性騎士の恋人の妹が操るテレポートで街まで
送ってもらった後に、漸くカレンから事の経緯を聞き出したのだった。
曰く、
『少女の恋人が本当に少女を愛してくれないのは、昔の傭兵家業で何ら
かの原因によって、不能になってしまったからではないのか？』

そしてゼノスは大爆笑してしまう羽目となった。

　「判ってるって。しっかしお前、そんな話何処で仕入れてくるんだ？」
　「仕入れてって、私は保養所に勤めているのよ？　知識は勿論だけど実際
にそういった人も居たし・・・」
薬草類の扱いに長けているカレンは、それぞれの患者の症状によって薬草を
配合するのは勿論のこと、患者が抱えている様々な悩みを聞くのも治療の
一環としていた。
　「そーだよな。保養地なんだからそーいった人間もいるよな・・・」
笑い過ぎて渇いた喉を湿らせながら、ゼノスは納得したように頷いた。
極度の緊張状態が精神を蝕み、本来備わっている『欲求』という機能が正常
に働かなくなるのはゼノスも知っているし、目にしたこともある。
その状態に陥った男達は気力も覇気も無くしてしまい、生きる屍という他
ない。欲を無くした人間とは何と空しい存在であろうか・・・
　「ま、特に傭兵家業をやってる奴らは極端から極端に走り易いしな。
不能に陥る奴もいればその逆もいるし、野郎同士とゆーのもあるしな」
　「その逆？」
『野郎同士』というのはカレンにも意味が判る。
長い期間、男（もしくは女）しか居ない制限された生活の中で、互いの性欲
処理の為に身体を求め合うことは特に珍しいものではなく、場所や状況が
限定されればされるほどその傾向に陥り易い。
では、『逆』という意味は？
カレンが小首を傾げると、長い金の髪が一房ゼノスの片腕に舞い降りた。
昼間は常に後ろで緩やかに纏められている髪は、今は解かれて部屋の灯りの
元、淡い光沢を放っている。
　「ずっと、勃ちっぱなしとゆー意味さ」
　「えっ？！」
露骨な言葉にカレンは頬を紅潮させた。
　「昔の傭兵仲間にも興奮状態が治まらなくて、何回女を抱いても萎えない
奴が居たんだ。何時も一度に２、３人の女を相手にしていたにも関わら
ず、萎える程の満足は得られず、そして興奮も収まらない。
それの繰り返しでさ・・・」
ゼノスが金の髪に指を滑らせ、巻きつけては梳けるといった動作を繰り返す
のを、カレンは見るともなしに見つめていた。
　「で、でも、それじゃ・・・」
「あぁ、神経がもたねぇよな。傭兵ってのは頭使わねーように思われてる
けどよ、実際は逆なんだぜ？　状況に応じて意識の切り替えをしなけ
りゃやっていけねー家業なんだ。どんなに神経が図太かろーと、頭の
回転が早かろーと、これが出来なきゃ生きていけねーんだ」
ゼノスが自身の家業について語ったのは初めてであった。
カレンに余計な心配をかけたくなかったのは勿論であるが、元来自身の考え
を言葉で表現するのが苦手であったからである。
　「兄さん、結局その人はどうなったの？」
　「・・・死んだよ」
ある程度予想していたとはいえ、ぽつりと呟いた言葉の重みに、カレンは
息を飲んだ。
　「娼婦の館の一室であいつは・・・女達を巻き添えにしてな・・・
　　ひでぇサマだったぜ。部屋中血だらけで、あいつは自分の首を切って
　　死んでいやがった・・・」
男の名前は忘れてしまったというのに、当時の光景は今でも鮮明に思い出す
ことが出来る。
部屋の壁だけではなく、天井にまで撒かれた血飛沫と、床に転がる肉の塊は、
元居た人間の数も判らない程に散乱していたことを───
その中に唯一、人間の形を保ったモノが横たわっていた。
この部屋の惨状を引き起こした男の顔は、それまで見てきた焦燥と憤りに
彩られていたとは思えない程、安らかな表情をしていた。
更に、これまで興奮状態だった男の『証し』は、皮肉にも漸く落ち着きを
取り戻していたのであった。
当時ゼノスは、男の死を『無様な死に方』と侮蔑したのだが・・・
　「今思えばあいつがあんなになっちまったのは、あいつの心が満たされて
いなかったからだ、と俺は思ってるんだ」
ゼノスはカレンの髪を握りしめ動作を止めた。
　「傭兵家業も、女も、自分の人生全てにあいつはどれも満足出来なかった
んだよ。満たされない思いが溜まってしまった結果があの最後だった。
一つでも何か満足出来るものがあれば、あいつはあんな風にはならなか
った筈だ」
戦うことに満足するなら戦う為に生き続け、女を抱くことに満足するので
あれば抱く為に生き延びる。極論であるが人生の目的など簡単で判り易い
ものではないだろうか？
　「じゃあ・・・兄さんは？」
不意に問いかけられ、ゼノスは意識をカレンへと向けた。
　「兄さんは、その時どうだったの？　満足していたの？　仕事にも・・・
お、女の人にも・・・」
ゼノスとて健康な男なのだから、これまで女性と関係を持ったことなどない
、などとカレンは思ってはいない。それでもやはり、自分の兄が───今
では恋人であるが───見知らぬ女性を抱く姿など想像したくもなかった。
何故なら嫌悪感よりも激しい嫉妬心に支配された自分自身が、とても醜い女
であることを自覚したくなかったからである。
そんなカレンの心情を他所に、ゼノスは当時のことを思い出していた。
　「・・・そうだな。仕事は自分で選んだんだから、ある程度満足していた。
　　女は・・・そう言えば・・・初めての時にな───」

昔、仲間内の酒の席で『女との経験が無い』とゼノスが一言洩らしたばかり
に、酔った連中に連れられて初めて娼館へ行った時のこと。
自分とは年が一回り離れている、と明るい調子で話しをする女は、娼婦特有
の荒んだ印象からは程遠い、ごく普通の女に見えた。
一つ一つの動作に説明をしながら事を進めていく女に戸惑い、されるままに
やがて達してしまったゼノスは、快楽よりも先に罪悪感を抱いてしまった。
『こんなことをもし、カレンが知ったら・・・』
身体が萎縮してしまい、行為を続けることが出来なくなってしまったゼノス
を、女は優しく抱き寄せた。
　「好きな子が居るのかい？」
　「・・・・・・」
　「じゃあ、嫌われたくない子が居るんだね？」
前者の問いには当時『妹』であったカレンを完全に当てはめることが出来ず
返答に躊躇したが、後者の問いであれば不自然ではないので首肯した。
　「じゃあ尚更、最初が肝心だ。しっかり覚えていくんだね。間違った知識
は、あんたも、あんたが本当に好きな子も傷つけてしまうんだからね。
いーい？　あんたも男なんだから、女を抱いて欲求不満を晴らすこと
もあるだろうけど、抱くならあたしらのような玄人にしときな。絶対
素人女に手を出すんじゃないよ、いいね？」
　「な、なんでだ？」
念を押す口調は真剣で、ゼノスは思わず気圧されそうになるが、
　「馬っ鹿だねぇ、後々面倒なことになるからだよ。それにそんな女に手を
　　出されたらあたしらの商売あがったりじゃないか」
一転してけらけらとひとしきり笑う女に、次第に緊張が解けていった。
　「それとね、これがもっとも大事なことなんだけど。あんたの出す『汁』
を玄人女の中に出さないこと。たとえ相手が『中に出して』と強請って
も出しちゃいけないよ」
　「・・・それも後々の為なのか？」
　「まぁ、それもあるけど。中に出すのは、あんたが本当に好きで好きで
たまらない女だけに与えられる特権だってこと。その方が本当の意味で
気持ち良くなれるからさ、判った？」
再度女の真剣な表情に、ゼノスは『気持ち良い』の意味もまだ判らぬまま
思わず頷いてしまった。
その後、仕事で訪れた街々で何度か娼婦と身体を重ねたことはあったが
最初の印象が強かった所為か、女の中で達することはなかった。
やがて自分の中で、カレンの存在が強くなったことを自覚したゼノスは、女
を抱くこと自体をやめてしまった────

　「あの人に感謝しないとな・・・　あの人に会わなかったら俺は見境なく
女に手を出して、とんでもない目に遭ってたかも知れねえからな」
　「・・・私も感謝しないといけないわね」
　「ん？」
　「だって、兄さんが・・・その・・・初めて私の中に出してくれたのよね。
　　・・・とても嬉しかったの。そして・・・気持ち良かった・・・」
恥じらいながら囁くカレンがとても愛らしくて、ゼノスは手にしていた金の
髪を軽く引っ張り、それにつられたカレンが頭を下げたところで軽く唇を
重ねた。そして微笑んで、
　「俺もだ。お前の初めての男になれて嬉しかったし、それにお前の中は
気持ち良くってさ・・・最高だ」
両腕を立ったままのカレンの腰に廻して引き寄せ、今度は深く口付けた。
舌を入れ、ゆっくりと口の中を蹂躙すると、微かに震えているカレンの
柔らかい舌先を探し当て、自身の舌をそれに這わせた。
　「・・・ん・・・ふ・・・ぅ、はっ・・・」
なぞるような舌の動きに唇の隙間から吐息が漏れ出す。逃れようにもゼノス
の片手が、しっかりと頭の後ろを押さえていて逃れることが出来ない。
震える舌を裏側までも念入りになぞり、絡めとって吸い上げる。
次第に息が上がるカレンは、両手をゼノスの肩へ置いて力が抜けていく自身
の身体を支えた。ゼノスはそのままの状態で、カレンの纏っている部屋着の
みを取り去った。身体全体が外気に触れカレンは咄嗟に唇を離して狼狽した。
　「あ、駄目！」
　「何でだ？」
目の前に現れた白い裸体はうっすらと紅潮し、大きくて形の良い乳房の先は
すでに硬く尖って自己主張を始めていた。ゼノスは首筋に口付け、片方の
乳房を下から持ち上げて軽く揉みしだく。
　「だ、だって、こんな所で・・・それに、灯りが・・・」
身体を重ねる時は、必ず寝室で灯りを点けないというのが暗黙の了解で
あった。『見られている』ことを意識すると極度に緊張してしまい、行為に
集中出来ないというのはカレンの弁である。それでも夜目が利くゼノスには
余り意味の無い制約であったのだが。
これまではカレンの意を汲んで、暗闇の中で彼女を愛しんでいたが、今日は
そのままの状態でカレンを味わうことにした。
身体中に刻まれた紅い印を消す為に、暫く夜を共に過ごすことが出来な
かった反動と、初めて明るい場所で目にした白い裸体に、既に気持ちを
抑えることが出来なくなった為である。
求めるようなゼノスの手の動きを、カレンは妨げようとするがそれより先に、
もう片方の乳房に暖かい吐息が掛かった。
　「はっ・・・！　・・・ぅ」
思わず嬌声が上がるのを必死に抑え、耐えているカレンの反応を楽しむかの
ようにゼノスは尖った乳首を舌で転がす。片方の乳房は掌に包み込まれ、
もう片方の乳房は先端を口に含まれた状況に、カレンは『拒絶しなくては』
と冷静な部分で意識を奮い立たせるものの『身を委ねたい』という女の本能
が次第に心と身体を支配していく。
片手を背筋に這わせ、執拗に両胸を愛撫するゼノスは、やがて微かな音を
耳にした。自分の目線よりも下の方から聞こえてくる、カレンが唯一身に
着けている薄布の更に奥・・・身悶えする度に聞こえるぬかるんだ音。

───　享楽の証し　───

ゼノスは掌を胸から腹部へと滑らせ、秘丘を覆うようにしながら指を太腿の
奥で止めた。案の定、カレンの秘所は薄布の上からでも判る程にしっとりと
湿っていた。
　「あっ、やぁ・・・！」
腰を引き、力の入らない両足を閉じようとするカレンに、ゼノスは片方の
足を割り込ませ動きを妨げると、薄布の上から秘所を愛撫し始めた。
割れ目に沿って擦るようになぞり、蜜が湧き出ている奥深い場所を軽く押す
と、カレンが一際高い嬌声を上げた。
本能の波に呑み込まれ、身体が更なる快楽を求めるのをカレンは止めること
が出来なくなり、やがて指の動きに合わせて身体を揺らし始めた。
　「ん・・・ぅん、・・・はぁん」
細腕をゼノスの首に廻して震える身体を支え、耳元で甘い吐息を洩らす
カレンを全身で感じ、ゼノスの中心も熱くなっていく。
「・・・カレン・・・」
促すような囁きと同時に、片腕を握られ下へと導かれたその先には、硬くて
熱を伴ったゼノス自身がそそり勃っていた。
　「あ・・・」
指先で軽く触れると滑らかな表面が震え、それに呼応するかのようにカレン
の奥底から熱い滴りが湧き出てくる。硬いそれを両手で包み込むように握り
ながら、カレンはゼノスの両足の間に顔を埋めた。
　「・・・っ！」
ぴちゃり、と音を立てカレンがゼノス自身の先端を舐めると、ゼノスは思
わず洩れそうになる声を堪えて、意識を自身へと集中させた。
柔らかな舌は先端からやがて太い部分へと移り、そして根元へと降りて行く。
特に感じる裏側を、ゆっくりと何度も舌を這わせ軽く口付けられると、
ゼノスは奥歯を噛み締め頂点に達してしまいそうな意識を必死に抑えつける。
次第に熱くなる身体を冷ますように、ゼノスは服を脱ぎ捨てた。その間も
カレンはゼノス自身を愛撫していた。小刻みに震え、色を変え、硬さが増し
ていくのを口の中で感じ取っていた。
　「カ、カレ・・・ン、もう・・・いい・・・」
静止の声に何時であれば愛撫をやめるのだが、今日は違った。
頬張るように口と舌で抽送を繰り返し、強く吸い上げて前後に動かす。
　「カレ・・・っ　離れ・・・！」
強い口調にそれでも拒絶するように首を振ると、浅く咥えていた自身を一気
に深く含み込んだ。自身に絡みつく口内の感触に、ゼノスは耐えていたもの
をそのまま吐き出してしまった。　
　「んく！　んんっ！・・・ふ・・・っ」
口元を押さえて白濁した飛沫を嚥下するカレンの姿は、灯りの元にあって
とても妖艶で、更なる情欲を掻き立てられる。
ゼノスは椅子から立ち上がりながら、全てを飲み乾し吐息を洩らすカレンを
抱き上げると、テーブルの上に横たえた。
　「な、何？　・・・はあぁっ！」
薄布を素早く取り去り、大きく広げた両足を肩に乗せ動作を制限すると、
熟れて愛蜜を溢れさせている秘所に口付けた。貪るように舌で蜜を掬い取り、
音を立てて啜ると甘い喘ぎ声と共に、次々と新しい蜜が湧き出る。それでも
足りなくなると、指を入れてかき回し、上の方でぷっくりと膨らんでいる
花芯を指で軽く撮み、或いは唇で食んで催促するとカレンの身体が波打つ
ように跳ねて新たな蜜をゼノスに供給する。次々と溢れ出る透明な蜜は
餓えた心と喉を潤し、喘ぐ声は欲望と共にゼノス自身を再度勃たせる。
　「は、あん！　はっ・・・あうっ・・・あっ、やあぁぁ・・・！」
嬌声と共にカレンの身体が小刻みに震えた瞬間、力が抜け落ちたように全身
の緊張が解けてしまった。軽く達してしまったのだ。
ゼノスは肩に乗せていたカレンの両足を下ろして、身体を抱き起こした。
互いの素肌から伝わる熱と鼓動を感じ合う、この瞬間がとても好きだった。
そして、これから更なる高みへと上るのだが、それには一つの言葉が必要
だった。その言葉をカレンの口から告げて貰わなくてはならない。
　「・・・カレン・・・」
身体が紅潮し、陶酔しているように瞳を閉じていたカレンが、ゼノスの呼び
かけに応えた。甘い吐息に乗せ望んでいる言葉を耳元で囁く。
　
　「・・・ゼノス・・・」

カレンを心から愛するには、ひとりの『男』に戻らなくてはならなかった。
『兄』ではなく『男』となってカレンを愛することを許される言霊。
今、それを手にしたゼノスは深く口付けて意思を伝え、カレンを床へと降ろ
すと後ろを向かせて足を開かせた。
　「あ、ああっ！　・・・ふぅ、はぁ・・・ぁ」
後ろからの挿入に押されて、カレンは身体の中の空気をゆっくりと吐き出す。
そうすることによって、ゼノス自身が最奥まで辿り着くのを手助けするかの
ように、そしてカレンもより深く感じる為に、テーブルの端に掴まりながら
腰を突き出して力を抜いた。カレンの中は熱く溶けていて、奥に進むごとに
肉襞が絡みつきながら侵入を手助けしていく。やがて最奥に辿り着くと全体
が歓喜に震え、ゼノス自身をきつく絞めつけた。
　「く・・・っ、カレン・・・」
　「あ・・・ゼノス・・・ゼノス・・・」
自分を求める声にゼノスは抽送を始めた。本当は中の感触をもっと味わい
たかったのだが、本能がカレンを欲して歯止めが利かなくなってしまった。
深く腰を打ちつけ、浅い部分で動きを止めるとカレンの中が空虚さに咽び
泣く。それを何度も繰り返すと次第にカレンの肉襞が断続的に震え始めた。
ゼノスも絶頂に達する為に激しく腰を打ち付ける。
　「カレン、愛してる・・・カレン・・・！！」
「私も、愛してる・・・愛してるわ、ゼノス！　あっ、はああぁぁ・・・！！」
嬌声と同時に激しく収縮するカレンの中で、ゼノスは思いのたけを勢いよく
注ぎ込むと、中に染み渡る飛沫にカレンは再度身体を震わせ達してしまった。
溢れ出る二人の快楽の証しは、交じり合いながら太腿を濡らして流れ落ちて
いった───

　「・・・ん・・・」
カレンが目を覚ましたのは柔らかいベッドの中だった。
カーテン越しからうっすらと光が射し始めている。どうやら朝方のようだ。
横では何時も通りゼノスが眠っていた。互いに一糸纏わぬ身体には昨夜の
余韻がまだ残っている。三度目までは記憶しているがその後は覚えていない。
カレンは朝食の用意の為、身体を起こそうとした。すると腕を引っ張られ
ゼノスの逞しい胸の中に戻ってしまった。
　「起きてたの？」
　「・・・カレン・・・　俺、この街から離れようと思ってるんだ」
突然の言葉に、カレンは気だるさの残る身体を起こしてゼノスを凝視した。
　「この街が嫌いだとか、そういったことじゃないんだ。・・・ただ、この
　　街に居る限り、俺とお前は単なる仲の良い兄妹にしか見られない。
俺は・・・嫌なんだ」
不安気に見つめるカレンの頬に手を添え、視線を合わせた。
　「俺はお前を一人の女として愛したいし、一人の男として愛してもらい
たい。いくら俺達が本当は血の繋がりが全くなくて一緒になれる、と
言っても以前から俺達のことを知っている人間は、正直、納得して
くれないと思うんだ。だから・・・っ」
ゼノスの言葉を遮るように、カレンが軽く唇を重ねた。
　「私も同じ気持ちよ。妹としてではなくて一人の女として周りの人に
　　見て貰いたいの。だから・・・」

　『一緒に・・・生きて行こう』　
　『一緒に・・・生きて行きましょう』

それこそが、二人の唯一無二の願いであるのだから・・・

───　数ヶ月後　───

ローランディア北西部に開拓団が入り、一つの小さな村が形成された。
わずか十数人のその中に二人の姿はあった。
紅い髪の青年は、その逞しい体躯と持ち前の腕前で村の自警団の隊長となり、
長い金の髪の女性は、薬草類の知識を持って治療所を始めた。
仲睦ましい『恋人同士』に周囲は結婚はまだか？　と言葉を掛けるのが
日課となっているという───